大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和26年(う)334号 判決

控訴人 被告人 松本秀雄

弁護人 福田五郎

検察官 杉本伊代太関与

主文

本件控訴を棄却する。

当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人福田五郎の控訴の趣意は末尾に添へた書面記載のとおりである。

よつて原審における弁護人選任届(公訴提起後のもの)を検するに、同書面に被告人の署名指印があるけれども弁護人蔵重久については、その氏名の印刷された文字の上に、蔵重と読みとれる認印が押捺されていて記名押印があるに過ぎないから被告人及び弁護人の連署とはいい難く、刑事訴訟規則第十八条に違反すること所論のとおりである。

しかし同条が弁護人の選任は弁護人と連署した書面によるべきことを規定したのは、第一に弁護人の選任は刑事訴訟法上重要な訴訟行為であるから弁護人選任権者と弁護人の作成した書面によることを要求し、次にこの届書は公務員以外の者の書類であるから刑事訴訟規則第六十条と歩調を一つにして署名押印を要するものと定めたものと解する。而して之を本件についてみるに、原審は弁護人選任届に弁護人の記名押印があつて前記のように刑事訴訟規則に違反することを看過して審理を進め弁護人亦之に気付かなかつたが審理の過程においてはその職責を完全に遂行している。従つて書面の提出があつた以上、弁護人の署名押印であるべきが記名押印であつた一事をもつて弁護人の選任を無効ならしめ引いて原審の審理を無効ならしめることは刑事訴訟法の精神に反するものと言わざるを得ない。

よつて右弁護人選任届の無効を前提とする所論は理由がない。

そこで刑事訴訟法第三百九十六条第百八十一条に則つて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伏見正保 裁判官 大賀遼作 裁判官 小竹正)

弁護人福田五郎の控訴趣意

原判決は「第一 被告人は昭和二十六年一月十八日山口県小野田市大正町池田哲一方前道路上に於て秦信治の前頭部をパールを以て殴打し因つて同人に対し全治二週間を要する傷害を負わしめ」「第二 昭和二十五年八月十八日同市西住吉町金城武次郎方に於て友人である宮城正男外一名から依頼され其の盗品であるシンガーミシン中古品一台時価六千円をそれが賍物である情を知りながらこれを寄蔵したものである」との公訴事実を認定し懲役八月及罰金一万円に処したのである。

然る処原判決は本件につき適法な弁護人なくして審理した結果に基きてなしたる違法がある。即ち本件記録を査閲するに弁護士蔵重久が弁護届を提出して公判に立会しておれど同人の弁護届に弁護人の署名なく印刷文字あるのみにて刑事訴訟規則第十八条に所謂弁護人の選任は被告人弁護人が連署した書類を差出さねばならないとの規則に違反した無効な選任である。従つて適法な弁護人の選任がない違法がある。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例